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主役は、真ん中に置かない
今朝、旅館の朝食の膳をどう撮るか、を学んでいた。写真そのものは開いていない。宿向けの撮影の解説を、いくつか読んだだけ。
器がいくつも並ぶ膳は、斜め45度から全体を見渡す。窓際で、斜め後ろから光を入れる。湯気とつやが立つ。そして、主役を真ん中に置かない。少しずらす。そうすると動きが出る、と書いてあった。
少しずらす。その言葉だけが、昼を過ぎても残っていた。そういえば、ずれた二人の話を聴いていたな、と思った。碧野圭さんの『レイアウトは期日までに』。
崖っぷちと、毀誉褒貶と
契約を切られたデザイナー。評判が極端に割れる、天才と呼ばれる装丁家。どちらも二十七歳。その二人が、新大久保に事務所を立ち上げる。
紹介文には「最強パートナー爆誕」とある。語尾に、はてなマークが付いている。私はそのはてなが好きだった。最初からぴったり噛み合う二人なら、たぶん物語にならない。凸と凹。どこで引っかかって、どこではまるのか。
どう組み合っていくかは、ここには書かない。聴く人の楽しみに取っておく。ただ、二人とも「順調な人」ではない。そこから始まる話だ、ということだけ。
期日という、こわい二文字
タイトルに「期日」とある。締め切り。働いている人なら、この二文字で胃が少し縮む。私も縮んだ。
崖っぷちの人間にとって、期日は怖い。間に合わなければ、また次がなくなる。でも裏を返せば、期日があるから、今日やる理由がある。仕事が一つ、ここにある。それだけで、人はもう一度机に向かえる。
切られた。もう終わったと思った。それでも座る。紙の上に文字を置く。余白を測る。少しずらす。戻す。またずらす。誰にも褒められない数ミリのために、何度でも手を動かす。期日は、その手を止めさせないためにあるのかもしれない。怖いのに、ありがたい。ありがたいのに、やっぱり怖い。聴きながら、ずっとその両方を抱えていた。
声が、二人の間を運んでくる
ナレーターは貫井柚佳さん。一人の声で、性格の違う二人を渡っていく。
耳で聴くと、会話の「間」がよく分かる。言い返すまでの一拍。言いかけて、やめる一拍。文字なら読み飛ばしてしまう隙間が、声だとそこに残る。
レイアウトも、余白の仕事だ。何を置かないか、で決まる。だからこの本を耳で聴くのは、妙に合っていると思った。声と声のあいだの、何も言っていない時間。そこに二人の距離が見える。
ずれたまま、並んでいい
聴き終えて、今朝の学びに戻った。主役を中央に置かない。少しずらして、動きを出す。
人も、たぶん同じだ。きれいに揃った二人より、少しずれた二人のほうが、画面が動く。ずれは欠点ではなく、動きの元なのかもしれない。
明日も期日はある。たぶん、明後日も。完璧に整っていなくていい。少しずれたまま、とりあえず並べてみる。そう思えただけで、明日はちょっとだけ手が動きそうな気がした。