魔導具師ダリヤはうつむかない

MIMIBUNKO

淡々と読まれるからこそ、まっすぐさが沁みた——魔導具師ダリヤはうつむかない

2026.06.08

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人として、そうありたいと思わせてくれる

——もし誰かに勧めるなら、最初の一言はなんですか。

「人として、そうありたい、って思わせてくれるお話。これに尽きます」

耳文庫のオーナーが、少し考えてからそう答えた。派手な煽り文句ではない。でも、これがいちばん本当のところなのだという。物語の面白さを語る前に、まず「人として」という言葉が出てくる。それが、この一冊の手触りを言い当てている気がした。

まっすぐで、裏表がない人

——どこが、そんなに刺さったんでしょう。

「主人公のダリヤが、何に対してもまっすぐなんです。裏表がない。……人って、どうしても打算や計算を考えてしまうじゃないですか。僕自身、そうじゃないとは言い切れない。だからこそ、彼女が憧れなのかもしれない」

計算をしない人、というのは、現実にはなかなかいない。だからこそ物語の中でまっすぐな人に出会うと、こちらの背筋まで少し伸びる。ダリヤという人は、読み手の中の「こうありたかった自分」を、そっと照らし返してくる。

その性格を、ある人物が言い表す場面がある。聴いていて、はっとさせられる一言だ。けれど、それはここでは書かない。読み進めた先で、ふいに出会ってほしいから。

ハラハラも、号泣もない。だから何度でも

——どんな時間に、聴いているんですか。

「朝起きてから寝るまで、隙間時間のぜんぶ、ですね。もう5周も6周もしています」

——5周。それはすごい。何がそんなに、繰り返させるんでしょう。

「この話には、サスペンスのハラハラも、ホラーの怖さも、号泣するような大きな感動もないんです。転生ものだから、もちろん日常そのものではない。でも、どこか日常の延長にあるような話で。だからこそ、隙間時間にぴったりなんですよ」

強い刺激でぐいぐい引っぱる物語ではない。むしろ静かだ。けれど、その静かさが、何でもない時間に寄り添ってくる。激しい起伏がないからこそ、何周しても疲れない。生活のそばに置いておける物語、というものが確かにある。

ある納品の場面で、手が止まった

——印象に残っている場面はありますか。

「4巻に、心を打たれる場面があって」

詳しくは聞かなかった。聴く前に中身を知ってしまうのは、もったいないからだ。ただ、オーナーはこう言った。

「ダリヤが、ある品物を納める場面なんです。値引きの話になって、周りはみんな身構えるんですよ。見返りに、何か別のことを要求されるんじゃないかって。打算で、ね。でも彼女が望んだのは、まったく違うことだった」

彼女が”見返り”に望んだものを聴いた時、たぶん、手が止まる。打算が並ぶ卓の上に、まっすぐな誇りで答える人がいる。その一言を、自分の耳で確かめてほしい。ここで割ってしまうのは、野暮というものだ。

淡々と読まれるからこそ、まっすぐさが沁みる

——声になって、何が違いましたか。

「セリフに、魂が宿っているんです。だからこそ、心がぐっときたり、涙ぐんだりする」

——ナレーションは、どんな感じなんでしょう。

「淡々と説明するタイプなんですよ。でも、だからこそ良かった」

これは、聴いてみるとよくわかる。語り手が出しゃばらない。感情を盛って絶叫したりしない。淡々と差し出されるからこそ、ダリヤの言葉そのものが、まっすぐ立ち上がってくる。声が透明だから、彼女のまっすぐさが、いっそう沁みる。文字で読んでいたら、たぶんここまでは届かなかった。

特別なドラマじゃなくていい、と思う人へ

この物語は、派手に殴ってはこない。だからこそ、何でもない一日を、静かにひかりいろに変えてくれる。

特別なドラマはいらない。でも、毎日をほんの少しだけ温かくしたい。そんな人にこそ、ダリヤは似合う。耳文庫が大切にしている「無色透明な隙間時間を、ひかりいろに」という軸と、この一冊はまっすぐ重なっている。

本から遠ざかっていた頃の話は、こちらの一冊に書いた。あわせて、耳文庫の本棚も覗いてもらえたら嬉しい。


ここまで読んでくれた、あなたへ。
何でもない一日を、静かにひかりいろにしてくれる物語です。

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