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今朝、「自己効力感」という言葉を読んでいた
今朝、自己効力感という言葉を学んでいた。「私はこの場面で、うまくやれる」。そういう、特定の場面に対する確信のことらしい。へえ、と思った。やる気とか自信とか、ふわっとした全体じゃなくて。「この場面で」という、狭くて具体的な手応えのことなんだ、と。
そして、その確信を育てる一番強い源は何か、と書いてあった。励ましの言葉じゃない。憧れの誰かを見ることでもない。小さくても本物の「できた」を、自分の手で積むこと。それが一番効く、と。言葉で説得されるだけじゃ、人はなかなか変われない。やってみて、できた。その一回が、いちばん深いところに残る。
読みながら、なぜか一冊の本のことを思い出していた。営業の魔法。タイトルだけ見ると、なんだか胡散くさい。魔法、なんて。でも、聴き終わってみたら、これは「できた」を積ませてもらう話だったな、と。だから今日、これを書こうと思った。
契約が、一件も取れない男
主人公は小笠原という新人営業マン。入社して、契約が一件も取れない。一件も、だ。会社にいるのが気まずくて、時間つぶしに喫茶店へ逃げ込む。その逃げ場所で、紙谷という男に出会う。
紙谷さんは、まるで魔法みたいに契約をまとめてしまう人だった。でも、彼が小笠原に渡すのは答えじゃない。手順でもない。問いだ。「君ならどうする?」「今、お客様は何を考えていると思う?」。そうやって、小笠原に自分で考えさせる。掴ませる。一個ずつ。
読んでいて(聴いていて)、しんどい場面もある。小笠原がうまくいかなくて、空回りして。でも、その不器用さが、こっちの記憶のどこかと重なる。誰にだって、何をやっても噛み合わなかった時期がある。あの、出口の見えない感じ。ああ、これ知ってる、と思う。物語が、自分の昔のほうへ手を伸ばしてくる。
通勤の電車でも、台所に立ちながらでも。耳だけ空いていれば、紙谷さんの声は届く。
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魔法、というほどのものじゃなかった
正直に言う。題に「魔法」とついているけど、出てくるのは魔法じゃない。地味だ。聴く順番を守る。沈黙を怖がらない。相手の言葉を、もう一度返す。一つひとつは、知っていれば「なんだ、そんなこと」と言いたくなるような、小さな所作ばかり。
でも、その小さな所作を、小笠原が一つ覚えるたびに、本当に一件取れる。取れたあとの、あの顔。声の弾み。今朝学んだことが、そのまま物語の中で起きていた。言葉で励まされるんじゃない。やってみて、できた。その一回が、彼を内側から変えていく。次は、もう少しだけ前に出られる。その積み重ねだけが、人を立たせる。
紙谷さんは、最後まで答えを手渡さない。問いだけを渡し続ける。それはきっと、答えを渡してしまったら、それは紙谷さんの成功であって、小笠原の「できた」にはならないからだ。教えるって、こういうことなのかもしれない。自分が解いて見せることじゃなくて、相手が解ける場所まで、そっと連れていくこと。
声で聴くと、紙谷さんが隣にいる
この本、ナレーターが複数いる。地の文を読む人、小笠原の声、紙谷さんの声。対話で進んでいく物語だから、声が分かれているのが、すごくいい。文字で読むと「紙谷は言った」で流れてしまうところが、耳だと、本当にその人がそこで喋っているように立ち上がる。
とくに紙谷さんの声。落ち着いていて、急かさない。問いを投げたあと、ちゃんと間がある。その間が、活字だと自分で作らなきゃいけないけど、声だと向こうが作ってくれる。沈黙ごと、渡される。聴いているこっちまで、その問いを一緒に考える側に引き込まれていく。
営業の本、ビジネス書、と身構えなくていい。耳で聴いていると、これは喫茶店で交わされる、ただの良い会話だ。湯気の向こうで、年上の誰かが、不器用な若い人に根気よく付き合っている。その温度が、声からじかに伝わってくる。
聴き終えて、明日に少しだけ前向きになる
聴き終えて、机に向かう仕事のことを少し考えた。営業の話、なのに。残ったのは「売る」じゃなくて、「人をどう育てるか」のほうだった。答えを渡してしまいたくなる。そのほうが早いから。でも、早いだけだ。相手の「できた」は、そこには生まれない。
今朝の学びと、この物語が、夜にちゃんと一本につながった。小さな達成を積ませること。答えじゃなく問いを渡すこと。別々の場所から来たはずなのに、言っていることは同じだった。たぶん、本当のことって、いろんな入り口から入っても、同じ部屋にたどり着く。
派手な逆転はない。でも、明日ちょっとだけ頑張ってみようか、と思える。それは、小笠原が一件取るたびに前へ出られたのと、たぶん同じ仕組みだ。大きな自信じゃなくていい。「この一個なら、やれる」。その狭い確信を、ひとつだけ持って眠る。そういう夜に、ちょうどいい一冊だった。