カラフル

MIMIBUNKO

「カラフル」オーディブル版 ― 自分の目は、思っているほど自分のものじゃない

2026.07.15

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今朝、自分の目を疑っていた

今朝、ハロー効果というものを学んでいた。最初に受けた一つの印象が、あとの関係ない評価ぜんぶに滲んでいく。相手の見た目が良いと、なぜか能力まで高く見える。そういう歪み。

こわいのは、本人が気づけないところだ。ある実験では、自分の判断がそうやって連動していることを、被験者が本気で否定したらしい。滲んでいる自覚が、ない。つまり、自分の目は、思っているほど自分のものじゃない。

そこまで考えて、ふと止まった。そういえば、この本の「ぼく」も、ずっと借り物の目で世界を見ていた。森絵都の「カラフル」。もう一度、聴きたくなった。

借りた体で、家族を見る

罪を犯した魂が、輪廻から外される。もう生まれ変われない。でも天使業界の抽選に当たって、一度だけチャンスをもらう。自殺を図った少年・真の体にホームステイして、生前の自分の罪を思い出すこと。それが条件。

だから「ぼく」は、真じゃない。真の家族を、後から入った他人の目で見ることになる。母がいて、父がいて、兄がいる。最初は、正直、がっかりする。なんだこの家族は、と思う。ひどい人たちに見える。

でも、毎日その体で暮らしていくうちに、少しずつ色が変わってくる。同じ母親が、ちがって見えてくる瞬間がある。最悪だと決めつけていた家が、そう単純じゃなかったと分かってくる。ぼくは何も足していない。ただ、もう一度、見ただけ。

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この本は、「もう一度見る」話だ

読み直して思う。カラフルの芯は、「同じものを、もう一度見る」ことなんだと思う。真が「もうだめだ」と塗りつぶしていた家族も、学校も、好きだった女の子も、まっさらな目で見直すと、ちがう色をしている。最初の一枚の印象で、全部を一色に染めていただけ。

それって、今朝学んだハロー効果の、ちょうど裏返しなんだ。最初の印象が、後のぜんぶを染める。だったら。いったん自分の外に出て、もう一度見れば、色はまた変わるかもしれない。ぼくが真の体を借りたのは、そのための距離だったのかもしれない。

森絵都は、これを説教くさく書かない。ここが好きだ。中学生の口ぶりで、ぶっきらぼうに、でも根っこは優しく。人生って、こんな色もあんな色もある、と。声を張らずに、それを置いていく。

声だと、この距離がちょうどいい

声で聴くと、この「ぼく」の距離感がよく効く。真の中にいるのに、真じゃない。少し引いた場所から、家族のことを、他人みたいに、でもだんだん情がわいてしゃべる。その微妙な位置が、ナレーションだと体温として伝わってくる。

文字で読むと、ぼくの毒っ気のある一人称は「読むもの」だ。でも耳で聴くと、それが「隣でぼやいている声」になる。家族に苛立つところの、ちょっと投げやりな間。誰かを見直してハッとするところの、ふっと落ちる声。その揺れを、自分の頭で作らずに、受け取れる。

夜、目を閉じて聴いていると、自分も真の体を借りて、この家に間借りしているような気になる。玄関の音。台所の気配。声だからこそ、世界の側から入ってくる。

聴き終えて、残った一色

誰が、どんな罪だったのか。それがどこへ繋がるのかは、聴く人の楽しみに伏せておく。ぼくも、最後まで聴いて、静かに息を吐いた。

残ったのは、たぶん一色じゃない。世界はモノクロじゃなくて、いろんな色が混じっている。自分が「もう終わりだ」と一色に塗ったその上にも、まだ塗り重ねられる色がある。今朝のハロー効果の話とつなげるなら——最初の印象は、最後の印象じゃない。

明日、ちょっとだけ、もう一度見てみようと思う。決めつけた人のこと。うんざりした自分の毎日のこと。目を疑うところから、色は変わる。カラフルは、それを大きな声で言わずに、そっと手渡してくる本だった。


ここまで読んでくれた、あなたへ。
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