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今朝、順番の話を学んでいた
コントラストの原理、というものを学んでいた。人は物事を絶対値で見ない。直前に見たものと比べて評価する。同じ提案でも、前に何を置いたかで印象が変わる。
なるほど、と思った。思ったあと、少し嫌な気持ちにもなった。じゃあ自分がいま「いい」と思っているものは、本当にいいのか。直前に置かれたものの影響を、自分は数えられているのか。
そこで、この本のことを思い出した。外山滋比古の「こうやって、考える。」。考えることについて、ずっと考えてきた人の本。自分の頭の癖を疑いたくなった日に、これ以上ない相手だった。
150の断片が、順番に届く
この本は、著者のこれまでの著作から発想のヒントを150、抜き出して並べたものだ。『思考の整理学』を書いた人の、考え方の芯だけを取り出した本、と言えばいいだろうか。
だから通しの物語はない。一つ一つが短い。ぽん、と置かれて、次に行く。読む本としてはたぶん、飛ばし読みができる形をしている。
耳だと、それができない。飛ばせない。順番に、一つずつ来る。ここが良かった。150個ある中で、自分が「いま要る」と思うものだけを拾う読み方が、耳では封じられる。関係ないと思ったものまで、全部通る。そして関係ないと思ったやつが、あとで効いたりする。
寝かせる、という技術
この本の芯にあるのは、考えは机の前では完成しない、という一点だと思う。
思いついたら、すぐ形にしたくなる。今日中に結論を出したくなる。出さないと、何もしていない気がする。でもこの人は、寝かせろと言う。忘れろとまで言う。忘れて、それでも残ったものが本物だ、と。
これは、しんどい教えだ。効率の逆を行っている。手を止めて待て、と言われているのだから。でも自分の実感として、たしかにそうなのだ。腰を据えて考えた三十分より、風呂で急に来た三秒のほうが、いいものだったことが何度もある。あれは怠けていたんじゃなくて、寝かせていたのだ。そう言ってもらえたことが、思った以上に効いた。効率が悪いんじゃない。効率の定義のほうが、間違っていた。
声で受け取ると、考えが歩き出す
岩瀬善太郎さんの声は、落ち着いていて、押しつけがない。この本にはそれが合っている。啓発の本を熱く読まれると、こちらは身構えてしまう。だからこの温度でよかった。
そして、この本を耳で聴く一番の効きどころは、聴きながら歩けることだと思う。この著者が言っている「寝かせる」を、聴いている最中にそのまま実行できてしまう。手も目も空いているから、言葉が入ってきて、そのまま自分の考えとまざる。
机の前で読むと、メモを取ろうとしてしまう。線を引こうとしてしまう。それをやると、たぶん死ぬ種類の本だ。整理した瞬間に、整理した気になって終わる。耳で聴いて、覚えていないまま歩いているほうが、この本の言う通りに使えている気がした。
残らなかったものは、要らなかったもの
聴き終わって、150のうち何個覚えているか。正直に言えば、数個だ。
でも、それでいいんだと思う。この本自身がそう言っているのだから。忘れて、それでも残ったものだけが自分のもの。残らなかったものは、いまの自分に要らなかっただけ。
朝に学んだコントラストの話と、この本は、どこか繋がっている気がしている。どちらも、自分の判断が思ったより自分のものじゃない、という話だ。だから一度、寝かせる。直前に見たものの熱が冷めるまで待つ。それだけで、たぶん少し違う結論が出る。今日、急いで決めなくていいことがひとつあった。決めなかった。それがこの本を聴いた成果だと思っている。