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偽物、という言葉
今朝、インポスター現象というものを学んでいた。高い成果を出している人ほど、自分の実力を「運」や「タイミング」のせいにしてしまう。すごいことを成し遂げても、心のどこかで「自分は偽物なんじゃないか」と思ってしまう現象。有病率49%、という数字も出ていたけど、測り方次第でいくらでも変わるらしい。数字より、その構造のほうが胸に残った。
そういえば、と思い出した本がある。「名探偵再び」。主人公の時夜翔には、学園の名探偵だった大伯母がいる。数々の難事件を解決して、警察からも助言を求められた人。その名前を背負って、翔は学園に入っていく。自分で選んだわけじゃない看板を、最初から背負っている話だ。
看板を継ぐということ
私立雷辺女学園。翔の肩には「あの人の親戚」という視線が、最初からのっている。三十年前、大伯母は学園を裏で操っていた理事長・Mと対決した、という過去が少しずつ語られていく。詳しくは書かないけど、その対決の結末が、今の翔の周りにまだ影を落としている。潮谷験さんらしい、一筋縄ではいかない構成だった。ページをめくる、じゃなくて、耳が次を急かされる感じ。
聴きながら、翔が背負っているものの重さをずっと考えていた。大伯母はもう「伝説」になっている。翔はまだ、何者でもない。何者でもないのに、何者かのように扱われる。この居心地の悪さ、知っている気がした。
この本の芯にあるもの
誰かの後を継ぐ、ということ。名前だけでも、看板だけでも、重い。翔は名探偵になりたいわけじゃないのかもしれない。でも周りが、勝手に期待してしまう。すごい人の後を継いだ人は、自分の実力じゃなくて前の人の七光りだと思われがちだし、本人もそう思ってしまう。「私はまだ、あの人じゃない」って。
今朝の学びと同じ形をしていた。成果を出しても、自分のものだと認められない。でも物語はそこで立ち止まらない。翔が、翔自身の言葉で謎に手を伸ばす瞬間がある。誰かの代わりじゃなく。そこから先は、聴く人の楽しみにしておきたい。
声だから届いたもの
ナレーター、東海林亜祐さんの声。翔の戸惑いや迷いが、そのままの温度で届いてくる。文字なら「戸惑った」の一文で済むところが、声だと間になる。言葉に詰まる、その沈黙まで聴こえてしまう。
大伯母の伝説が語られる場面と、翔自身が謎を解いていく場面とで、声のトーンが少しずつ変わっていく。多分これは、目で読んでいたら気づかなかった。耳だから拾えた変化だった。
聴き終えて、手元に残ったもの
名探偵じゃなくても、いい。翔がそうだったように。誰かの後を継ぐとか、期待に応えるとか、そういう話じゃなくて、自分の言葉で、自分のやり方で動く瞬間があるかどうか、なんだと思う。
インポスター現象の話に戻ると、成果を運のせいにするのをやめて「これは自分の実力だ」と思えた瞬間があるかどうか、が分かれ目らしい。翔にも、その瞬間があった。聴いていて、こっちまでちょっと救われた。また聴き返すかもしれない。今度は、翔の言葉だけを追いながら。