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顔色から、勝手に読んでいた
今朝、認知の歪みについて調べていた。人は、相手の心を確かめもしないまま「きっとこう思っている」と決めてしまう。そういう癖があるらしい。
読みながら、思い当たることがあった。黙っている人。表情が動かない人。そういう相手の顔を見て、私は勝手に何かを読み取っている。怒っているのかな。呆れているのかな。確かめたことは、あまりない。
そういえば、と思い出したのが「能面検事」だった。表情を変えないことで〈能面〉と呼ばれる検事の話だ。
不破俊太郎という人
大阪地検一級検事、不破俊太郎。どんな圧力にも屈しない。微塵も表情を変えない。だから、陰で〈能面〉と呼ばれている。
そこに配属されてくるのが、新米事務官の総領美晴。彼女の目を通して、不破という人が少しずつ見えてくる。西成のストーカー殺人事件を調べていく中で。
事件の細部はここには書かない。どう繋がっていくかは、聴く人の楽しみにしておく。
ただ、ひとつだけ。総領が不破の顔を見て、あれこれ読もうとする。その気持ちが、痛いほどわかった。
顔がないなら、何を見ればいいのか
能面みたいな顔の人を前にして、私たちは何を手がかりにするのか。
顔は読めない。なら、残るのは言葉と、やったことだけだ。不破は表情を変えない。でも、圧力に屈しない。それは態度として、はっきり残る。
この本の芯は、そこにあると思う。顔色をうかがうのをやめたとき、人はようやくその人自身を見られる。
職場で、顔色ばかり気にして擦り減っている時がある。そんな時こそ、この不破という人の在り方は、妙に静かに効いてくる。
声で聴くと、表情がないことが際立つ
ナレーターは夏谷美希さん。
紙で読む時は、「表情を変えない」という文字を目で追う。耳で聴くと、少し違う。声の抑揚が、ほとんど動かない場面がある。そこに、かえって緊張が生まれる。
間がある。その間に、聴いているこちらが勝手に意味を埋めようとする。ああ、これだ。今朝学んだ、あの癖だ。
声が静かなほど、こちらの心がうるさく動く。それを自覚させられるのは、耳で聴く体験ならではだと思った。
聴き終えて、残ったもの
聴き終えて、しばらく誰かの顔を思い浮かべていた。表情の読めない、あの人。確かめもしないで、私が決めつけていたあの人。
決めつけをやめる、なんて大げさなことはできない。でも、顔じゃなくて、言葉と行いを見てみよう。そのくらいなら、明日からできそうだ。
ミステリーとして楽しめる本だ。そのうえで、人の見方を少しだけ変えてくれる。通勤の途中でも、夜の家事の合間でも、聴いてみてほしい。