※本ページはアフィリエイト広告(PR)を含みます。
今朝、「人が動かない理由」を勉強していた
Foggの行動モデル、というものを学んでいた。B=MAP。行動は、動機(Motivation)と能力(Ability)ときっかけ(Prompt)が同時にそろった時にだけ起きる。逆に言うと、どれか一つ欠けたら人は動かない。
面白かったのはここ。人が動かない時、たいていの人は「動機が足りない」と考える。やる気の問題だ、と。でもFoggは順番が逆だと言う。まず疑うべきは能力のほう。つまり「面倒くささ」。時間がかかる。お金がかかる。頭を使う。周りの目が気になる。いつもの生活からはみ出す。そういう小さな摩擦を先に削れ、と。
なるほどと思いながらメモを取っていて、ふと手が止まった。これ、選挙の話じゃないか。
「若者が選挙に行っても何も変わらない」から始まる本
成田悠輔さんの「22世紀の民主主義」。冒頭で、いきなり言い切られる。若者が選挙に行って政治参加したくらいでは、日本は何も変わらない。これは冷笑ではない、と本人が念を押す。もっと大事なことを見よう、という呼びかけなのだと。
正直、最初はムッとした。投票に行こうと言う側の話は何度も聞いてきたし、それを否定されると、なんというか、行儀の悪いことを言われた気になる。
でも聴き進めるうちに、朝のメモとつながってしまった。「行こう」と呼びかけるのは、動機を上げにいく作戦だ。啓発。ポスター。芸能人の呼びかけ。全部そっち側。でも投票という行動そのものは、平日に紙をもらって、休日に指定された場所まで歩いて、鉛筆で名前を書いて、箱に入れる。この設計、いつのものだろう。
怒られるのを覚悟で言うと、この本は「聴く」ほうが向いている気がした。
最初の30日は無料で試せます。
Audible無料体験/30日以内に退会すれば費用は一切かかりません。
本が壊しにかかるのは、やる気じゃなくて仕組みのほう
この本の芯は、たぶんそこにある。民主主義がうまく機能していないとして、それを「有権者の意識が低いから」で片づけない。制度そのものの設計が古いんじゃないか、という方向に切り込んでいく。
そこから先の展開——選挙がアルゴリズムになるとか、政治家がネコになるとか——は、タイトルからしてもう相当なことを言っている。どこまで本気で、どこからが挑発なのか。それは聴きながら考えてほしい。ここで種を明かすのは野暮だと思う。
ただ一つ。読み終えて残ったのは「賛成/反対」じゃなかった。自分がずっと、動かない人を意志の弱さで説明してきたな、という気づきのほうだった。政治の話に限らない。仕事でも、家の中でも。
この本は、声で聴くと角が取れる
谷合律子さんのナレーション。落ち着いている。淡々としている。ここが効いた。
文字で読んでいたら、たぶん強い言葉のところで何度も止まっていたと思う。目は速い。速いぶん、引っかかった一文の前で立ち止まって、そこだけ何度も睨んでしまう。「若者が選挙に行っても」の一行で本を閉じていた可能性は、わりと高い。
でも声は、こちらの都合で止まってくれない。淡々と次に進む。腹が立った一文が、もう後ろに流れていく。そして三段落あとで「ああ、そういう文脈で言ってたのか」と分かる。読むと戦ってしまう本が、聴くと最後まで聴けてしまう。この本については、それがいいほうに転んだ。過激な主張ほど、静かな声で運ばれたほうが届く。
夜の散歩と、投票所までの道のり
聴き終えて、何かが解決したわけじゃない。明日から社会が変わるわけでもない。
残ったのは、視点がひとつ上に上がった感じ。自分が立っている場所を、少し引いて眺めている感じ。ニュースを見て「政治家が悪い」でも「国民が無関心だ」でもなく、これは設計の話だな、と思えるようになった。それだけ。それだけだけど、その「それだけ」が、けっこう効く。
怒りは疲れる。あきらめは冷たい。設計の話として見ると、その両方から少しだけ降りられる。眠れない夜に、天井を睨みながら聴くのに向いている一冊だった。何かに腹を立てて眠れない夜が、いちばん向いているかもしれない。