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死を目の前にしても、人は変わらないかもしれない
今朝、恐怖管理理論というものを知った。死を意識すると、人は自分の信じるものを強く守ろうとする。そういう理論。名前だけ聞くと、なるほどと思う。誰だって、死を前にしたら何かにすがりたくなる気がする。
でも、2020年代の大規模な追試で、この効果はほぼゼロだったらしい。もっともらしい理論ほど、確かめると崩れることがある。知っていることと、確かめたことは、別物。そう思っていた朝に、この本のことを思い出した。「爆弾」。
交番から始まる、静かすぎる脅迫
主人公は、警察官ではない。酔っ払って交番に連れてこられた、とぼけた見た目の中年男。些細な傷害事件。名前もはっきりしない。取調べの途中で、ぽつりと言う。十時に、秋葉原で爆発がある。
警察は最初、まともに取り合わない。よくいる、迷惑な酔っ払い。そう見くびる。でも、時間だけが過ぎていく。予言が、当たる。次の予言も出てくる。物語は、ほとんど取調室から動かない。動くのは、警察の顔色だけ。
守りたいものなんて、最初から無いのかもしれない
朝の理論の話に戻る。死の予告を目の前にして、この男は何かにすがっただろうか。信念を強めただろうか。聴いていて、そうは見えなかった。むしろ揺れているのは、周りの人間ばかり。
守りたいものが最初からあるのか、それとも取調室の中で急いで探しているだけなのか。ずっとそこが気になっていた。正義は、守れるのか。帯にあった一文が、最後まで頭から離れなかった。
声だけが、ずっと落ち着いていた
オーディブルで聴くと、取調室の空気がそのまま声になる。星祐樹さんの低さ。品田美穂さんの張りつめた声。二人の掛け合いだけで、部屋の温度が分かる。文字だと流してしまう息づかいが、耳だと逃げない。
一番効いたのは、間だった。次の台詞が来るまでの、あの数秒。待って、待って、それでも何も起きない。息を止めて、ただ待つしかない。その静けさが、爆発そのものより怖かった。
聴き終えて、まだ息を止めている
聴き終わって、しばらく次の作業に戻れなかった。爆発したかどうかより、あの取調室に残った空気のほうが、ずっと長く残った。
信じるものを守るために人は動く、という理論は、たぶん半分は嘘だった。それでも、この本の中の誰かは、何かを守ろうとしていた気がする。守れたかどうかは、聴いたあなたの記憶に任せたい。