店長がバカすぎて

MIMIBUNKO

「店長がバカすぎて」オーディブル版 ― うまく説明できない苛立ちの、正体を教わった

2026.08.21

※本ページはアフィリエイト広告(PR)を含みます。

今朝、「知っている側は説明が下手になる」と学んだ

知識の呪い、という言葉を今日はじめて知った。分かっている人間は、分かっていない人がどこで転ぶかを想像できなくなる。訓練が足りないんじゃなくて、構造としてそうなる。だから対策は「知らないふりをする」ことではなくて、実際に知らない人に読ませて反応を見るしかない。そう書いてあった。

読みながら、ちょっと苦しくなった。仕事で誰かに説明して、伝わらなくて、内心で「なんで分からないんだ」と思ったこと。あれ、相手の問題じゃなかったのか。

で、なぜかそこで思い出したのがこの本だった。『店長がバカすぎて』。分かってない上司に、毎日毎日、内心で悪態をついている女性の話。今朝の学びの、ちょうど反対側から見た景色だ。

吉祥寺の書店で、契約社員が二十八歳

主人公は谷原京子。吉祥寺の書店で働く契約社員。二十八歳。給料は安い。忙しさは尋常じゃない。お客様からのクレームは毎日来る。そして、店長がバカすぎる。

山本猛という名前。名前だけは勇ましい。中身は違う。人を苛立たせることにかけて、天才的な才能がある。会議で意味のないことを言う。空気を読まない。良かれと思ってやったことが全部裏目に出る。

京子は毎日、心の中で叫んでいる。ああ、店長がバカすぎる。それが章タイトルになるくらい、彼女の日常の中心にある。書店員として本を愛していて、真面目にやっていて、それでもどうにもならないことばかりで、それでもレジに立つ。

働いてる人の愚痴を、他人の声で浴びる。それが効く日がある。
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この本が刺さるのは、たぶん、あの構造のせい

京子から見た店長は、ただのバカだ。でも聴いていて途中で気づく。店長のほうも、たぶん自分では一生懸命なつもりでいる。

今朝の学びに引き戻される。知っている側は、知らない側がどこで迷子になるか分からない。逆もそうだ。相手の中で何が起きているのかは、外からは見えない。だから人は他人をバカだと思う。実際にバカな場面もあるけど、そうじゃない場面のほうが、たぶん多い。

この本、そこを説教しない。それが一番いい。誰も反省しないし、誰も改心しない。ただ、聴き進めていくうちに、こちらの中で勝手に何かが動く。京子の悪態を全力で肯定しながら、同時に、自分が誰かにとっての店長かもしれないと薄々思っている。その居心地の悪さが、笑いと一緒に来る。

働くって、そういうことだった。誰も悪くないのに全員が疲れている。それを愚痴の形でしか吐き出せない。京子の言葉は、代わりに言ってくれている言葉だ。

声にすると、愚痴が愚痴じゃなくなる

この本は耳で聴くべきだと思った。理由がある。

文字で読む愚痴は、活字だ。冷たい。でも声で聴く愚痴は、隣の席の人の声になる。ナレーターの知愛さんが読む京子は、怒っているのに、どこかで諦めていて、それでもまだ本を売る仕事が好きな人の声をしている。その三つが同時に鳴っている。文字だけだと、どれか一つに読んでしまう。

特に、店長の台詞が入るところ。あの間。京子が呆れて言葉を失う、その空白の長さ。あそこは活字だと一行の余白でしかないけど、声だと本当に時間が流れる。息が止まる。そして、次の一言が来る。

笑ってしまった。歩きながら、ひとりで。

聴き終えて、翌朝またレジに立つ人のこと

何かが解決するわけじゃない。京子の給料は上がらないし、店長は店長のままだ。でも聴き終わったあと、変な元気が残った。

たぶん、京子が辞めないからだ。あれだけ文句を言って、あれだけ疲れて、それでも翌日また出勤する。それを美談として書かない。ただ、そうする人として書く。だから信じられる。

自分の仕事のことを考えた。今朝、知識の呪いなんてものを学んで、少し賢くなった気になっていた。でも本当のところ、明日また誰かに説明して、また伝わらないんだろう。それでも説明する。京子がレジに立つのと同じように。

そういう本だった。慰めてもこないし、教えてもこない。ただ、隣で愚痴を言ってくれる。それが一番効く日が、たしかにある。


ここまで読んでくれた、あなたへ。
その物語の、入り口です。

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