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無視は、数分でも痛い
今朝、オストラシズムという言葉を学んでいた。社会的な無視。仲間外れ。研究では、ほんの数分の無視でも人はちゃんと痛がるらしい。しかも、相手が見知らぬ誰かでも痛い。所属したい、ここにいると認められたい。その欲求が、あっけなく揺れる。
痛みのあと、人は二つに分かれるという。従うか、怒るか。もう一度輪に入れてもらうために合わせるか、押し返すか。
従う。その二文字のところで、手が止まった。ひとりの女の子が浮かんだから。茜。汐見夏衛さんの『夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく』の主人公。あの子はたぶん、ずっと「従う」の側で生きてきた子だ。
隣の席の、正反対
茜は高校二年生。誰からも信頼される優等生。頼まれたら断らない。場の空気を先に読む。笑うところで、ちゃんと笑う。外から見れば、何の問題もない。
隣の席に青磁がいる。思ったことを、そのまま言う男の子。その彼が、茜に言う。嫌いだ、と。茜は彼が苦手になる。当然だと思う。自分が一番しないことを、平気でする相手だから。
でも物語は、その青磁が茜を救う方へ進んでいく。どう救うのか。何から救うのか。そこは伏せておく。聴く人が自分で辿り着く場所だから。
いい子でいる理由
学んだモデルでいえば、揺れるのは所属と存在感の欲求。茜が怖がっているのは、嫌われることそのものより、その手前にあるものじゃないか。ここにいていい、が、なくなること。
だから、ちゃんとする。先に気づく。先に謝る。先に笑う。先に引き受ける。誰かの機嫌が曇らないように、誰かががっかりしないように、自分がここにいていい理由を、毎日、毎日、小さく、小さく、積み上げる。積み上げて、積み上げて、積み上げたぶんだけ、自分の本当の声がどこにあったか分からなくなる。聴いていて、そこが一番苦しかった。そして一番、覚えがあった。
そこに「嫌いだ」が来る。変な話だけど、と思う。無視より、ずっと近い。嫌いだ、は、相手を見ていないと言えない言葉だ。茜を素通りしなかった人が、ひとりだけいた。この本の芯は、たぶんそこにある。
言わなかった言葉が、間になる
ナレーターは広瀬有香さん。茜の声は、丁寧で、やわらかい。人に向けた声。それと、胸の中の声。耳で聴くと、その二つの距離がはっきり分かる。口に出した言葉と、飲み込んだ言葉。その差が、一拍の間になって残る。
青磁の言葉は短い。ぶっきらぼう。文字なら読み流す一行が、声になると、まっすぐ届く。茜がどきっとするのと同じ場所で、こちらもどきっとする。
目で読むと、自分のペースで通り過ぎてしまう沈黙がある。音だと、通り過ぎられない。待たされる。その待たされる時間が、茜の時間に一番近かった。
返事は、先に一言でいい
今朝の学びには、もうひとつ続きがあった。返事が遅れること自体が、相手を揺らすかもしれない。だから中身がまだ決まっていなくても、受け取りました、を先に返す。それだけで最初の痛みは避けられる可能性がある。まだ仮説。でも、筋はいいと思った。
聴き終えて、それを思い出した。茜に要ったのも、立派な答えじゃなかった気がする。ここにいるのを見ている。その一言。
明日、誰かに先に返そう。まだ何も決まっていなくても。届いてるよ、と。ちゃんと見ているよ、と。