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見たいものしか、見ていない
今朝、確認バイアスのことを学んでいた。自分の考えに合う情報ばかり集めて、合わないものは軽く見てしまう。人はそういうふうにできている、という話。
読みながら、少し笑った。身に覚えがありすぎる。一度「こうだ」と思うと、反対の材料が目に入らなくなる。入っていても、なかったことにする。
そういえば、と思った。最近聴いたミステリーが、まさにそこを突いてくる本だった。『一次元の挿し木』。2025年の『このミステリーがすごい!』大賞で文庫グランプリを獲った作品。
『一次元の挿し木』という本
著者は松下龍之介さん。ナレーションは青野早恵さん。あらすじは、ここでは多くを語らない。ネタバレ厳禁の種類の本だと思う。
聴きはじめて、すぐ引き込まれた。謎の置き方がうまい。「あれ?」と思う小さな引っかかりが、あちこちに撒かれている。
ただ、その引っかかりを、私は自分の都合のいい方に解釈していた。こういう話だろう、と。早々に犯人の見当までつけて、悦に入っていた。
どう転ぶかは、聴く人の楽しみ。ここでは言わない。ただ、私の「こうだ」は、きれいに揺さぶられた。
この本の芯は、疑い方にある
謎解きの快感は、真相そのものより、そこへ向かう道の途中にある気がする。何を信じて、何を疑うか。その選び方がそのまま物語の面白さになる。
登場人物たちも、それぞれの「信じたいもの」を持っている。見たくないものから目をそらす。それが読者にもうつる。
だから聴いている間、ずっと自分を試されていた。確認バイアスの話を朝に読んでいたぶん、余計に。「いま、私は何を見ないようにしている?」と、何度か自問した。
ミステリーなのに、少しだけ自分の頭の中を覗く時間になった。これは予想外の収穫だった。
声で聴くと、間が効く
耳で聴くミステリーのいいところは、速さを自分で決められないこと。目なら、気になる箇所を先に読んでしまえる。耳は、語られる速度で進むしかない。
青野早恵さんの声は、落ち着いていて、でも要所で温度が変わる。声がほんの少し低くなる。息が止まる。その「間」で、こちらの想像が勝手に走り出す。
文字なら流してしまう一文が、声だと重く沈む。伏線の気配が、耳に残る。あとから「あのときの声」が思い出されて、ぞくっとする。
夜の静かな時間に聴くと、とくに効いた。部屋が静かなぶん、物語の中の音が近い。
聴き終えて残ったもの
聴き終えて、しばらく動けなかった。驚いた、というより、自分の見方を一度ほどかれた感じ。
「正しい」と思っているものを、ときどき疑ってみる。その練習になるミステリーだった。難しいことではなく、ただ一拍おいて「本当に?」と聞くだけ。
もう一度、最初から聴き直したい。今度は、最初の引っかかりを、ちゃんと引っかかりのまま受け取りながら。