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直感と、検算と
今朝、二重過程理論を学んでいた。人の思考には二つのモードがある、という話。ぱっと浮かぶ速い直感がシステム1。ゆっくり確かめる熟慮がシステム2。
読みながら、ミステリのことを考えた。
あれは、この二つのせめぎ合いだ。「こいつが怪しい」と、システム1が勝手に犯人を決める。そのあとでシステム2が出てきて、本当にそうか、と検算する。裏切られると気持ちいい。
そういえば、この本がそうだった。知念実希人「硝子の塔の殺人」。
雪の森に建つ、硝子の塔
舞台は雪深い森。そこに、硝子の塔が建っている。地上11階、地下1階。唯一無二の美しく巨大な尖塔、と紹介されている。
もう、この絵面だけでいい。雪の白。硝子の透明。閉じた場所。ミステリが始まらないほうがおかしい。
あらすじは、これ以上は書かない。誰がどう関わるのか、何が起きるのか。聴く人の楽しみにとっておく。
ただ、500ページ、一気読み。そう謳われているのは分かる。止まらなくなる側の本だと思う。
疑う気持ちを、止められない
聴いている間、私のシステム1は大忙しだった。
この人、怪しい。いや、こっちか。根拠はない。声の調子とか、ちょっとした言い回しとか、そんなもの。直感だから、止められない。
そのあとで、システム2が働く。あの場面はおかしくなかったか。さっきの台詞と合うか。頭の中で、ひとつずつ戻って確かめる。
この往復が、楽しい。当たるかどうかは、あまり関係ない。自分の頭が、ちゃんと動いている感じがする。
どう繋がるのか。それは、聴いて確かめてほしい。
耳だと、戻れない
紙の本なら、気になったページに指を挟んで戻れる。耳だと、そうはいかない。声は流れていく。
だから、ナレーターの高梨謙吾さんの声に、ついていくしかない。引っかかった言葉は、頭の中に置いたまま、先へ進む。
これが意外と、ミステリに合っていた。置いておいた違和感が、あとで急に意味を持つ。戻れないから、覚えている。
夜、ひとりで聴くのもいい。暗い部屋で声だけがあると、雪の森の静けさが、こっちまで来る。
聴き終えて残るもの
聴き終わって、しばらく動けなかった。
犯人が分かったから、ではない。いや、それもあるけど。自分の直感が、どれだけ当てにならないか。そして、どれだけ楽しく外れるか。それを、体で味わった感じ。
速く決めたがる自分がいる。確かめたがる自分もいる。どちらも、いていい。
硝子の塔は、透明なのに、見えないものだらけだった。そこは書かない。
眠れない夜に、500ページ分の声を連れて。雪の森へ、行ってみてほしい。